岡田将生さんという優れた役者さんが主演を引き受けてくれたので、「この演出ができる!」と思った『右肩の女』。
【ほん怖トリビア⑤】
『土曜プレミアム・ほんとにあった怖い話 夏の特別編2025』(16日21:00~23:10)で放映される『右肩の女』(演出:鶴田法男 脚本:穂科エミ 出演:岡田将生、蓮佛美沙子、窪田正孝)は、2012年の作品。
いま、メインキャスト3名のお名前を書いていて、あまりに豪華すぎるのでちょっと手が震えました(笑)。当時、既に人気の皆さんでしたが、今はそれに拍車を掛けて活躍されてますから本当に素晴らしいです。
フジテレビ『ほん怖』は1999年の記念すべき1作目から「怖いホラー」を作ることを最大のテーマにしていましたが、最後の話だけは「感動系」にして後味を良くしようというコンセプトで取り組んできました。
しかし、ある時期から、「変化球」と関係者が呼ぶ「ちょっと笑える作品」も加わることになりました。人気の高い『犯人は誰だ』(14年/出演:草彅剛、北乃きい)や『悪夢の絵馬』(16年/出演:バカリズム)などが好例ですが、その「変化球」を定着させた決定的な作品がこの『右肩の女』でした。
原作漫画は怖くはないけど面白い体験談だったのでドラマ化したいとプロデューサーと話し合って、テレビドラマの経験が無い若い作家さん達にプロット(あらすじ)を書いてもらいコンペを行いました。その中で圧倒的に面白かったのが小劇場演劇界で活躍する穂科エミさんのプロットでした。
それを脚本に仕上げてもらってキャスティング作業に入ったわけです。結果として前述の豪華なキャスティングを成し得たのは、ひとえに脚本の出来が良かったからです。
脚本の出来が良いと準備も順調に進みますし、監督である自分のアイディアも盛り込みやすくなります。
前半のレストランのシーンで「え? 幽霊?」と思わせる演出や、寝ていた利也(岡田将生)がスマホと間違えて寝ぼけて黒い財布を手にしてしまう芝居などは私の思い付きで盛り込んだものです。
また、悪夢の描写で利也の上に女の幽霊が乗っていることにしたは、スイス人画家フュースリーの18世紀の有名な絵画「夢魔」のオマージュをやりたかったからです。
このショットは岡田将生さんの上に幽霊役の女優さんが単に乗っているように見えるかもしれません。しかし、そんなことをしたら岡田さんが苦しくて芝居が出来ませんから、実は岡田さんの身体に合わせた台を美術部に作ってもらい、それを目立たないように工夫して女優さんに乗ってもらっています。事前の準備の時に思い付いたので出来たことでした。
それと、大学の教室に女の幽霊が現れるシーンも単純なようで実は非常に難しいことをやっています。文字で説明しても理解してもらえないので省きますが、ひとつだけハッキリ言えるのは岡田将生さんが同じ芝居を何度も繰り返してくれたので出来たことでした。岡田将生さんという優れた役者さんが主演を引き受けてくれたので、「この演出ができる!」と思った次第です。
それと、クライマックスの霊能者と利也の会話と、真実(蓮佛美沙子)と利也の会話が交錯するシーンも、実はかなり難しい演出をしています。これは私の大好きなブライアン・デ・パルマ監督(『ミッション:インポッシブル』、『アンタッチャブル』ほか)の演出に影響を受けてます。
優れた脚本と一流の出演陣、それに優秀なスタッフが揃っていると技術的に難しい演出を構築できるという好例になっていると思うので、映画やドラマの演出に興味がある方はその辺りも注意してご覧になってみてください。
ところで、『右肩の女』から『ほん怖』に参加した穂科エミさんは、その後、レギュラー作家になっており、先述の『犯人は誰だ』や『悪夢の絵馬』の他、私が2016年に現場から卒業した後も、『影女』(17年/主演:杉咲花)、『視線の出処』(23年/主演:中村アン)等などの優れた作品の脚本を担当しています。
また、2023年には舞台『呪怨 THE LIVE』の脚本も書かれています。
なお現在、下北沢駅前劇場で穂科エミ主催「はぶ談戯」による演出作『JULIO/フリオ』が上演されています。『パコと魔法の絵本』の後藤ひろひと氏のホラー戯曲を穂科エミ流の笑いを交えて演出していて楽しめます。
昨日の初日に行ったら『呪怨』シリーズの清水崇監督も来ていたので穂科さんを挟んで3ショット。17日(日)までの上演です。