寝言

『おろち』製作裏々日誌(2)

立て込み中の門前家ホール。

立て込み中の門前家ホール。

 私はこの企画のオファーを受けて直ぐに『何がジェーンに起ったか?』を見返した。また、ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』も思い浮かべたのでこれも直ぐに見返した。しかしそれ以後、この2作を見返すことはなかった。映画『おろち』の姉妹の心理は『何がジェーンに起ったか?』の姉妹のそれよりも複雑で参考にならなかったからだ。また『サンセット大通り』は大女優役のグロリア・スワンソンの立ち居振る舞いや、執事役のエリッヒ・フォン・シュトロハイムの静かな存在感に、門前葵や執事の西条のイメージをなんとなく掴ませてくれたが、それ以外はあまりにも贅沢すぎる映画でこれも参考にならなかった。結局、脚本の打ち合わせの最中もこの2作が話題に上ることはほとんどなく、常に一番参考になったのは楳図さんの原作そのものだった。

完成間近の門前家ホール。

完成間近の門前家ホール。

 さて、いよいよ製作が決定し具体的な準備に入る頃になって私はヒッチコックの『レベッカ』を思い返していた。というのは“おろち”の描写に関して悩んだからだ。人の運命を見つめる神がかり的な存在なのだから、人間同様に描いてはならないし、かといって私が得意として描いてきた幽霊とも違う。あれこれ思いを巡らしているうちに行き着いたのが『レベッカ』の家政婦ダンヴァースだった。この女性は主人公の前に突然現れて突然姿を消していく。人間なのにまるで幽霊のように描かれていた。しかも、ダンヴァースを演じた女優さんが一切まばたきをしないのが印象的だった。おろちはこれだな、と思った。見つめるだけの存在であれば、まばたきをしない理屈も通る。みっきーのまばたきを禁止した演出の真相は実はこんな事だった。