寝言

8年ぶりの“ゆうばりファンタ”。

男気がたぎるブロンソン、2大傑作『狼の挽歌』と『狼よさらば』の看板

男気がたぎるブロンソン、2大傑作『狼の挽歌』と『狼よさらば』の看板

 “ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009”に“オフシアター・コンペティション”の審査員として参加してきた。自作『案山子/KAKASHI』がこの映画祭に出品されたのが2001年だったから、8年ぶりの夕張だった。はじめて訪ねたときにまず魅了されたのが、街の至る所にある復刻された昔懐かしい映画の看板の数々。私が訪れて以後、市の財政破綻で映画祭も一時中止になったのであの看板たちの行く末を心配していたのだが、元気に健在していたので嬉しかった。8年前には気づかなかった大好きなチャールズ・ブロンソンの2作品を見つけたので写真をパチリ。『狼の挽歌』は日曜洋画劇場が初見なので公開時の看板の記憶が無いのだが、『狼よさらば』は学校帰りの渋谷で“渋谷宝塚”(この劇場の跡地にQ FRONTがある)に看板が掲げられていたのをよく覚えている。あの時のワクワクとした気分がこの北の地で30余年ぶりに蘇った。シネコンの発展でこういう手書きの看板が無くなってしまったのが寂しい。

 さて、“オフシアター・コンペティション”は一日に5本の長、短編を観ないといけないので50を手前にしたオヤジにはしんどかったが、応募300本強の中から選ばれた作品はどれも優れていて感心した。結果としてはヒップホップ青春映画『SR サイタマノラッパー』(監督・入江悠)をグランプリに選んだ。実は審査員全員が最初から本作を推していたわけではないのだが、討議を重ねるうちにこの結果になった。ちなみに、私は最初からグランプリに推していた一人。閉塞された現状にもがくラップに魅了された若者たちの切実な姿に感動してラストでは涙してしまった。弱冠29才の入江監督は近いうちに更に優れた仕事をしてくれるに違いない。
 ところで、審査以外で観た映画では『チェイサー』という韓国の社会派サスペンス・アクションが面白かった。実は鑑賞直後はいささか嫉妬してしまって素直に面白いと言えなかった。何しろ監督、脚本のナ・ホンジンはまだ34才で、しかも本作が長編処女作だという。私はホラーだけでなく、こんな作品を撮ってみたいと常々思っていた。それなのに、この若い監督はこの処女作をやすやすと創って韓国で大ヒットを飛ばし、更にはディカプリオ主演でハリウッド・リメイクも決まっているという。なんとも悔しい限りだ。

オフシアター・コンペティションの審査員メンバー。左から審査委員長の高橋伴明監督、鶴田、プチョン・ファンタ映画祭プログラマー、クォン・ヨンミンさん、香港のフォトグラファー、ウィン・シャさん、女優の渡辺真起子さん。

オフシアター・コンペティションの審査員メンバー。左から審査委員長の高橋伴明監督、鶴田、プチョン・ファンタ映画祭プログラマー、クォン・ヨンミンさん、香港のフォトグラファー、ウィン・シャさん、女優の渡辺真起子さん。

 まあ、それはさておき、かつてのハリウッド映画には『チェイサー』の様な良質な社会派サスペンス・アクションが多数あった。先に挙げたブロンソンの『狼よさらば』の他、『ウォーキング・トール』とか『ソルジャー・ボーイ』とか、大好きな『グライド・イン・ブルー』なんかもこの部類に入るかも知れない。それなのに、最近のハリウッド映画はハデなだけで大味な作品ばかりだ。ハリウッド映画の収益が落ちて“邦高洋低”に陥ったのも当然だろう。ブロンソン、スティーブ・マックイーン、リー・マーヴィン、ジェームズ・コバーン等々の役者が活躍していた頃の力のあるハリウッド映画が蘇って欲しいものだ。
 夕張では昼は映画を観まくり、夜は映画を肴に酒宴を開き、まさに映画漬けな日々を過ごした。映画人としてこれほど幸せなことはない。

アマンダ・プラマーさんと。『サウンド・オブ・ミュージック』の看板があったのでその下で撮ればよかったと後悔した。

アマンダ・プラマーさんと。『サウンド・オブ・ミュージック』の看板があったのでその下で撮ればよかったと後悔した。

そして何よりも、映画祭に打ち込むスタッフと夕張市民の熱意に感激した。来年は20回目を迎えるこの映画祭がいかなる逆境にも負けず未来永劫に続くことを願うのみである。

『SR サイタマノラッパー』公式サイト↓
http://sr-movie.com/
※’09年3月14日から2週間限定で池袋シネマ・ロサでレイト公開。

『チェイサー』公式サイト↓
http://www.chaser-movie.com/
※ディカプリオではなくて若い時のリー・マーヴィン主演で観てみたかった。