寝言

『エクソシスト』の思い出。

エクソシスト ディレクターズカット版 & オリジナル劇場版(2枚組) [Blu-ray]

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 お陰様で「三鷹コミュニティシネマ映画祭」が先日、無事に終了した。そこでこの映画祭の報告を記そうとしたのだが、11月頭の発売と同時に購入したものの忙しくて未見になっていた『エクソシスト』DC版&オリジナル劇場版BDセットをつい観てしまい、どうにも同作の思い出を記したくなってしまった。「三鷹コミュニティシネマ映画祭」については近々に記すが、とりあえず『エクソシスト』の思い出をここにアップしておきたい。
「本作は今後数ヶ月の間の上映が決定しておりますので、現在あわててご鑑賞いただかなくても大丈夫です」という趣旨の新聞広告が出たのは公開が始まって一週間目か二週間目だったろうか。『エクソシスト』の公開劇場に殺到した観客が転倒して怪我をしたのがきっかけだった。とにかく、1974年7月13日に公開が始まった本作は、映画を超えたセンセーションだった。当時中学生だった私の教室では、公開が始まる数日前から『エクソシスト』の話題で持ちきりで、公開初日の土曜日は授業を受けていても(当時の土曜は休みではなかった)、隣の席の学友と腕時計を眺めて「おい、『エクソシスト』の一回目の上映がついに始まったぞ」などと鑑賞を待ちきれずに闇雲な興奮をした。翌日曜日、私とその学友を含めたクラスメート一行は始発電車で東京は有楽町の旧・丸の内ピカデリー前に集まり、既に前夜から出来ていた行列に並んだ。そして、あまりの人の多さから1回目の上映前に急遽行われた特別上映でこのセンセーションを体験したのである。『エクソシスト』の初鑑賞は、映画を観たのではなく、体験したと言った方が正しい。旧・丸ピカは1千人以上が収容できたはずで立ち見も含めてぎゅうぎゅうに入った観客がもの凄い熱気でスクリーンを見つめるあの異様な空気感は筆舌に尽くしがたい。場内はショックシーンの度に悲鳴が飛び交い、時にはなんでもないシーンで勘違いして恐怖した観客を笑う声が響いたりした。そして私は、少女がいよいよ悪魔に取り憑かれて怖ろしい形相になり始めた中盤から、これ以上の恐怖に耐えられずにほぼ目をつむってしまった。本当は耳も塞ぎたかったのだが、それはできない。なにしろ、周囲に座る友人たちに自分が怖がっているのを悟られたくなかったのだ。スクリーンで禍々しいことが起きているのは音と観客の反応から分かる。しかし、怖くて見られない。薄目を開けてチラリと見るが、何が起こるか分からないのですぐに目をつむる。そうこうしているうちに映画が終了した時は、もうヘトヘトだった。そして学友たちを含め観客から「怖かった」の声が異口同音に上がった。ちゃんと見られなかった自分が悔しい。だから、そのまま劇場に居座ることにした(当時は入れ替え制ではないので、それが出来た)。2回目も1/3が見られなかった。3回目、4回目でやっと全編を通して観ることができた。すると、私は「なぜ、こんなに観客を釘付けにして怖がらせるのか?」という疑問が湧いた。そのために5回目、そして最終回の6回目を観た。3回目くらいまでは私に付き合っていた友人たちもとっくに帰っていた。6回観て私を怖れさせた全ての物事が映画という作り物であることに気がついたが、前記の疑問の回答は得られなかった。結局、翌週の日曜日も『エクソシスト』を観に行った。思えば、これが映画に人生を賭けるはめになった発端だったと思う。 (終)