寝言

悔しいけど素直に賞賛したい『パラノーマル・アクティビティ』。

 先日、フジテレビ「めざましテレビ」から全米大ヒット中のホラー映画『パラノーマル・アクティビティ』(来春日本公開)を観てその恐怖を分析して欲しいという依頼があり、その模様が11月23日に放映された。「派手なだけでひとつも怖くない昨今のハリウッド・ホラーとは全く真逆の作品」、「この作り手にJホラーの影響がないとは言わせない」などのコメントが使われ、思わず発した「悔しい!」のひと言で締めくくられていた。ただ、正直なところ溜飲が下りたような奇妙な気分にもなった。

 Jホラーの原点と呼ばれる私の監督デビュー作、ビデオ『ほんとにあった怖い話』シリーズ(’91?’92年)の中でも最も高く評価されているのが『霊のうごめく家』なのは当サイトを訪れてくださる方ならご存じだろう。ある古い一軒家に越してきた平凡な家族が怪異に悩まされる20分弱の短編で、人が部屋の片隅に立っているだけで幽霊と思わせる演出を黒沢清監督らが当時、高く評価してくれたのである。そして、テレビ版『ほん怖』でもプロデューサーから『霊のうごめく家』の様なものを創って欲しいと要請を受けて’03年の『金曜エンタテインメント/同3』(ビデオ&DVD未発売)でユースケ・サンタマリアさん主演による『憑かれた家』というやはり20分程度の作品も発表して好評を得た。だから、『霊のうごめく家』や『憑かれた家』を長編にしたような幽霊屋敷映画を創れないものかと夢想したことが何度もある。しかし、単に人が立っているだけだったり、怪しい音が響いたりという些細な恐怖だけを積み重ねて90分前後を構築するのは至難の業で悩むばかりだった。それなのに『パラノーマル・アクティビティ』はその困難をあっさりと乗り越えていた。しかも、驚くべき事に幽霊さえも登場しないのである。また、かつて私は「ドーナツの穴を撮りたい」という難しい命題を掲げていたのだが、それにも本作は回答を出してくれたように思った。これは存在しない存在を撮りたいということなのだが、登場人物や観客が恐怖の対象を認識することで物語が成り立つ劇映画でそれを撮るのはやはり非常な難しさがある。とにかく本作が些細な怪異の積み重ねでも一本の映画として成立したのは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』同様のフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)の手法をとったことによるものだろう。そして何より、少々無理な展開があってもこの恐怖描写をもってすれば観客の背筋を凍らせることができるという作り手の揺るぎない自信と熱意がみなぎっていることが大きい。私が29歳でビデオ『ほん怖』に取りかかった時にもこの自信と熱意があった。そしてそれは、今も失っていないつもりだ。だが、やはり20年近くもホラーを撮り続けていると迷う事もある。
 とにかく、『パラノーマル・アクティビティ』について嫉んだり、自分についてぼやいたりするよりも、ここは素直に賞賛して日本でもヒットすることを祈りたい。特に、残酷な表現を一切せず、音、風、影などで恐怖を構築する演出は我が『ほん怖』に似ているので、『ほん怖』ファンにお薦めだ。

『パラノーマル・アクティビティ』の一場面。

『パラノーマル・アクティビティ』の一場面。

ビデオ『ほん怖』は’05年に『Scary True Stories』のタイトルで米国発売されている。見えない何かの影が動き、痕跡が残り、そして身体を引っ張られるのは『真夜中の病棟』と酷似しているので、やっぱりちょっと複雑な思いに駆られる。

ビデオ『ほん怖』は’05年に『Scary True Stories』のタイトルで米国発売されている。見えない何かの影が動き、痕跡が残り、そして身体を引っ張られるのは『真夜中の病棟』と酷似しているので、やっぱりちょっと複雑な思いに駆られる。

※『パラノーマル・アクティビティ』サイト↓
http://www.paranormal-activity.jp/