『Dream Cruise』撮影現場取材。
取材:“関口渉”1957年2月19日生まれ
TV-CMを中心とした映像プロデューサーとして活動。
主な作品にJRA、伊藤ハム、劇場公開用映画「十三通目の手紙」など、他多数。
鶴田監督が手がけている「Dream Cruise」の撮影現場にお邪魔させてもらった。この作品はハリウッドのホラーの巨匠たちとの競作、日本代表・鶴田監督のお手並みをしばし拝見させていただいた。
東京都調布市の角川大映スタジオに久しぶりに訪れた。鶴田組が使っているNo.1スタジオは昔のままの雑然とした佇まいだった。映画の撮影にはやっぱりこんな雰囲気が重要なのかも。
スタジオの中は全面暗幕で覆われ、まさにホラー映画の現場・・・、本当はナイトシーンの抜け用のバックで、中央には大きなクルーザーのセットがでんと据えつけられていた。
外見はベニヤ板と角材むき出しのクルーザーだが、中身は本物。 とは言え、あちこちが可動式になっていて、カメラやライトがどこからでも狙える仕組みだ。200坪もあるスタジオなのに、この日の撮影現場は、クルーザーのセットの中のさらに狭い船室でのシーンだった。
女優・木村佳乃さんがびしょ濡れになって熱演している。面白いのは、そんな濡れた女優さん(水に濡れたという意味です)を暖めるビニールハウスが、スタジオ内部に建てられていたこと。女優に優しいと評判(?)の鶴田監督の心使いなのかどうかは、聞いていない。
さらに普通と違うのは、この作品が全篇英語の台詞で作られているというところだ。
監督をはじめ、スタッフもキャスト(主演の俳優を除き)もみんな日本人で、カメラマンの指示やライトマンのやりとりももちろん日本語が飛び交っているのだが、いざ本番になると聞こえてくるのは英語の台詞。
監督に英語が堪能なのですかと聞いてみると「全然。」という素朴な答えが返ってきた。
もちろん通訳スタッフが台本通りに台詞をしゃべっているかどうかはチェックしているのだろうが、監督は演技や表情できちんとOKとNGを見極めているのだろう。この日の撮影は、全体のスケジュールの中でもかなり後半、クランクアップも間近ということで、スタッフもキャストもかなり和んでいるように見えた。たった2~3日のCM撮影でもそうだが、長丁場の映画撮影で一番気を使うのは、やはり人間関係だ。
監督もハリウッドからやってきた俳優のクセをつかむまでに時間がかかったと話してはいたが、一度つかんでしまえば、いつもの鶴田ワールドの中で撮影が進んでいるのだろう。監督の表情には余裕の笑みが見えた。「でも、最初は大変だったんですよ。今年は天候がずっと不順で、ロケの初日に台風が来たりして、なにもできなかった。船のシーンばかりですからね、天気との闘いが辛かった。」どんなに周到な準備をして撮影に望んでも、天気ばかりは常に運任せ。いくらデジタル化が進んだ映像業界でも、こればかりはどうにもならない。合成で雨天を快晴にすることは時間とお金をかければ何とかなるが、大波に揺られるのを止めることはできない。
そして、個人的に、プロデューサー的に一番驚いたのは、35mmのカメラがまわっていたこと。低予算デジタル映画全盛の時代に、35mmがまわせるなんて、なんて贅沢な。
私もフィルムの“質感”が大好きで、予算さえ見合えばVTRなんかまわしたくない部類の人間だが、フィルムの微妙な“質感”を極めるには、照明機材は増えるは、そのライティング時間は長いは、でプロデューサーの心臓を弱めることになる。しかし、鶴田監督の“こだわり”が熱意となって、プロデューサーを説き伏せたようだ。この作品は世界のホラー監督の大御所が集まって、オムニバス形式で13本の作品を作り上げる。唯一、日本で撮影される鶴田監督の「Dream Cruise」(他の12本はバンクーバーで作られる)が、その“こだわり=熱意”で他の12本を圧倒する作品になることを祈ってやまない。
『Dream Cruise』は2007年2月に米国テレビ放映予定、日本は2007年初夏に劇場公開予定。
写真上:映画のメイン舞台であるクルーザーのセットの外観。
写真下:セットの内部。撮影後半だったのでソファーなどが壊され、フロントグラスの部分も取り除かれていた。